ソーシャルレンディング業界に暗い影を落としてきた「匿名化問題」に解決の光が見えてきました。
匿名化問題がクリアになれば投資家にとって大きなメリットがあると同時に、これまでソーシャルレンディングへの投資を躊躇していた投資家たちの新規参入を見込むことができ、業界活性化の起爆剤になる可能性を秘めてます。
この投稿では匿名化問題が解決することによるメリットについて詳しく解説します。
また、この動きにより新たな問題も生じる懸念を私は持っており、その独自見解についても説明いたします。
ソーシャルレンディングにおける匿名化問題とは?
まずは基礎知識のない人向けに匿名化問題について簡単に解説いたします。
ソーシャルレンディング関連の法規制
この問題について理解する前にソーシャルレンディングが規制を受ける法律について知る必要があります。
ソーシャルレンディングは「金融商品取引法」と「貸金業法」という2つの法規制のもと運営する必要があります。
前者の金融商品取引法は投資家保護の観点から作られた法律です。
後者は債務者保護の観点から事業者側を規制する法律です。
実は双方で矛盾した論点が存在しており、各論点ごとにどちらを重視するか?を解釈する必要があるわけですが、この投稿のメインテーマである「匿名化」もその矛盾の1つです。
ソーシャルレンディングの匿名化とは?
匿名化とは、債務者情報を指しています。
金融商品取引法は投資家を守る立場にあるので貸付先の情報を開示しよう!というトーンになるのですが、貸金業法的には債務者を守る立場にあるので貸付先のプライバシーは厳守しましょうというトーンとなります。
そしてこれまでソーシャルレンディングでは後者の債務者を守る立場の方が色濃く適用されてきました。
投資家に対する情報開示は二の次だったのです。
匿名化の例をご紹介
maneoで実際に募集されたファンドの情報をもとに匿名化の例を見てみましょう。
下図は業界シェアNo1のmaneoが募集する「不動産ローンファンド1391号」の仕組み図です。
(引用:https://www.maneo.jp/apl/fund/detail?fund_id=5515)
見てすぐお気づきの通り、「事業者Cや不動産事業者DFってどこや!?」「不動産抵当権や公正証書の証跡を見せてほしい!」なんて思う人もいるでしょう。
これまでは債務者プライバシー保護の観点から、法人であっても融資先が特定される情報が開示されることはありませんでした。
匿名化が起こした「みんなのクレジット事件」
債務者情報が匿名化されていてもトラブルが起きなければ問題ないのでしょう。
しかし、2017年に匿名性を悪用して投資家を裏切る「みんなのクレジット事件」が起きました。
みんなのクレジットは匿名性を利用して、代表取締役が同一のグループ親会社に対する融資ファンドばかり組成し、資金を集めました。
しかもファンド募集の文面ではA社向け、B社向け、C社向けとあたかも別企業へ融資するかのように欺き、分散投資効果のイメージを投資家に抱かせたのです。
その後、親会社含むグループ企業全体の経営状態が悪くなったことで、みんなのクレジットのファンドからの分配金はおろか、元本さえも返済されなくなってしまいました。
結果的にファンドが融資していた債権は回収専門企業(サービサー)に90%以上のディスカウントで売却されてしまい、投資家は対元本で90%以上の損失を被ったのです。
みんなのクレジット事件について、もっと詳しく知りたい人は過去の記事をご参照ください。
みんなのクレジット事件は悪意を以って匿名化問題が利用されたのですが、次に同じ悪事を働く業者がいてもおかしくありません。
債務者と投資家、プライバシーと情報開示のバランス良い落としどころを見つけ出して欲しいと関係者(ソーシャルレンディング事業者や投資家)は切に願っていました。
そして事態は匿名化問題の解決に向けて動き始めたのです!
ソーシャルレンディングの融資先の匿名化が廃止へ!
これまでソーシャルレンディング業界に暗い影を落としていた匿名化問題が解決に向かうという情報が2018年6月中旬に舞い込んできました。
6/17 日経新聞が朝刊で報道
このニュースを報じた日経新聞の記事を原文のまま転載いたします。
金融庁はインターネットで集める個人資金を企業に融資する仕組みで、借り手企業の名称などを開示できるようにする。
これまでは借り手企業の情報が伏せられており、個人が安心して投資できないうえに、匿名での調達に目を付けた企業に悪用されることがあった。
ネットを使う資金調達の流れが透明になれば、ベンチャー企業の育成に役立ちそうだ。
ファンドが不特定多数の個人から小口の資金を集め、企業に融資する「貸付型」のクラウドファンディングが対象だ。
個人はファンドが融資する企業名や事業内容が分かるようになり、投資の判断をしやすくなる。
金融庁がファンドの運営会社や関係する業界団体を対象に、2018年度中に情報開示を可能にすると通知する。
貸付型クラウドファンディングを手掛けるファンドは、貸金業法上の貸金業者として扱われている。
貸金業は借り手の保護が重視され、借り手を特定できる名称や事業内容は原則として開示できない。
借り手が優良なベンチャー企業でも、投資家には分からない状態にあった。
一方で借り手が匿名だと、不適切な資金調達に使われる恐れがある。
昨年3月には投資家の誤解を招く表示をしていた「みんなのクレジット」が業務停止命令を受けた。
政府の規制改革推進会議は借り手を見えるようにすれば、悪用を防ぐ効果と、投資家を呼び込む効果があると見ている。
個人投資家の小口資金を使えばベンチャー企業を後押しできるため、情報開示を求めていた。
引用:日経新聞の記事 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31871260W8A610C1MM8000/”
記事を要約すると・・・
この記事を要約してみます。
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こうやって要約してみると良い点ばかりでなく、いくつかの疑問や問題が湧いてきます。
新たに生じそうな問題① 融資先情報の開示は義務ではない
日経新聞の記事に記載の通り、「借り手企業の名称などを開示できるようにする」となっており、「開示を義務付ける」でない点が問題の火種となりそうな気がしてます。
これを戦略的(ポジティブ)に利用すれば、「匿名化案件=少し高い利回り」という差別化に繋がり、新たな商品性という意味で面白いかもしれません。
しかし悪用すれば「うちは高利回りファンドばかりです!(匿名という点は黙っておこう)」なんて業者がいて、初級投資家が何も知らず高利回りに踊らされて投資する・・・なんてシナリオも考えられます。
私もいちブロガーとしてこの辺りはシビアに情報発信することで、正しくファンド選定できるよう貢献していきたいとより一層思いを強くしました。
新たに生じそうな問題② 融資を募る企業が減る
債務者の中には、不特定多数の個人に情報がオープンになることを嫌がる企業も多数あるでしょう。
ソーシャルレンディングで調達する理由は借り手側ごとの事情によるのでしょうが、銀行で借りれないからソーシャルレンディング活用といった印象を持たれてしまうことを恐れて、情報開示を嫌がる企業も多いでしょう。
そして広く情報開示されるのを嫌がる企業は、ソーシャルレンディングで借りることを躊躇する可能性があり、ファンドの数が減ってしまう恐れがあります。
借り手が少なくなっていくと必然的に投資家へ提供できるファンドも少なくなり、ソーシャルレンディング業界がジリ貧に陥ってしまいます。
投資家保護の観点で情報開示されるのは大いに歓迎ですが、そもそも借り手企業がなくならないように注意してほしいですし、
借り手が嫌がるのであれば、敢えて匿名案件として取り扱っても良いのではないでしょうか。
ただしその際は
新たに生じそうな問題③ 金融庁が融資の実態を把握してない?
日経新聞の記事によると、匿名化問題の解決によってベンチャー企業へお金が回るようになるといった論調が目立ちます。ピックアップすると以下のような記載です。
- ネットを使う資金調達の流れが透明になれば、ベンチャー企業の育成に役立ちそうだ
- 借り手が優良なベンチャー企業でも、投資家には分からない状態
- 個人投資家の小口資金を使えばベンチャー企業を後押しできるため、情報開示を求めていた
実は上記の記載内容には個人的に違和感を持ってます。
ソーシャルレンディング事業者のセミナー等で話を聞けば分かるのですが、そもそもソーシャルレンディングはベンチャー企業を融資先のターゲットにしていないと思います。
そこそこ実績を積んだ企業だけど不動産関連のメザニンローンとか、審査が通りにくい業界企業とか、いろんな事情あって高金利を受け入れてでも融資が必要な企業をターゲットにしています。
一方でベンチャー企業を対象とすると、ソーシャルレンディング(融資)にしてはデフォルトのリスクが高すぎるため避けているといった発言をソーシャルレンディング事業者から聞く気がします。
このように業界の実態と記事の内容に差がある責任は日経新聞の取材力に問題があるのか、金融庁の関係者がソーシャルレンディング業界の実態を知らずに日経新聞へ返答してしまったのか・・・。
もし後者の金融庁に問題があるのであれば、全く実態に合わない通知がソーシャルレンディング事業者に行われ、混乱が起きる懸念があります。
今回ご紹介した通り、匿名化問題の解決の方向性は楽しみではあるものの多きな不安もあります。
業界全体に関わるビッグニュースなので、引き続き注視していきたいですね。
おすすめソーシャルレンディングは?
最後に私が個人的に安心を感じながら投資しているソーシャルレンディング事業者を3つご紹介します。
1つ目のmaneoは業界の老舗であり、実績NO1のソーシャルレンディング事業者です。maneoの活躍は1事業者にとどまらず、GMOクリック証券と業務提携したり、他の事業者にソーシャルレンディングシステムを提供したりと、プラットフォームビジネスにも力を入れています。
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2つ目のクラウドクレジットは、海外事業者への融資に特化したソーシャルレンディングであり、海外ならではの高利回り案件が魅力です。また伊藤忠商事やマネックスグループなどの優良企業から出資を受けるなど、業界内・外からの評判も高い事業者です。 |
3つ目のOwnersBookは不動産専門のソーシャルレンディング事業者です。2017年9月には運営会社のロードスターキャピタル社が東証マザーズ市場に上場しました。 |
ソーシャルレンディングは新興の投資商品ではありますが、初期からビジネスをしている会社は5年以上も実績を出していますし、私のような投資経験者も増えてきました。
事業者選びさえ間違えなければ、5%~10%のインカムゲインを得られるなんて素敵じゃないですか!
世界のソーシャルレンディング市場はもっと盛り上がっているので、今回のような法整備が進めば、業界は一層盛り上がることになるでしょうし、日本も今後勢いが増していくと見られています。
信頼できる事業者をしっかり見極めて、ソーシャルレンディングの強みである安定的な利回り、インカムゲインを得たいですね!
以上、本日はここまで。
それでは!
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